- 大沢流読むポイント
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- ■ 朝一番に新聞を読んで頭を活性化
- ■ 参考になる記事は切り抜く
- ■ ニュースと自分との関係を能動的に考える
新聞漬けの父
もともと父親が新聞記者でしたので、小さい頃からいつも新聞は自分の近くにありました。父は事件記者などを経て編集局長、専務まで務めた〝新聞漬け〟の人。私が子供の頃から、夜中に電話が鳴り、父が布団から起きて飛び出していく―という生活が当たり前でした。当時は社旗を立てた大きな車に乗って帰る父を見て、「かっこいいな」と思いましたね。
それと同時に、「新聞記者だけにはなりたくない」とも思っていました。私が3歳の頃、当時住んでいた名古屋の家の屋根が伊勢湾台風(昭和34年)で吹き飛んだのに、父が取材で家に帰ってこず、心細い思いをしましたので。(約40年前)父が亡くなったとき、当時の社長が「新聞社に入らないか」と声をかけてくれましたが、二足のわらじを履くのは難しいと思い、小説家の道を進みました。
今でも印象に残る新聞紙面は、中学生の頃の1面です。当時はベトナム戦争のさなかで、記事も多くが戦争関連。やはり意識しましたし、父親ともよく議論をしました。新聞が家にあるのは当たり前だと思っていたので、上京後に一人暮らしを始めてからも取っていました。隅々まで読んでいたかと問われたら、怪しいけれど。
個性はっきり
私にとって新聞は朝起きて顔を洗ってから読む「一日の始まり」です。頭を活性化させる作業として読んでいますし、それをしないで仕事にとりかかることはありません。紙面を読んでいて、小説の材料に使えると思った記事は切り抜いて取っておきます。その記事に書かれた事象の前には何が起きるのだろう…。そこにインスピレーションが湧きます。
新聞は産経など2紙を取っています。最近切り抜いた新聞記事は、覚醒剤関連や外国人犯罪などに関するもの。どこの島が中継地点になっているだとか、密輸などの現場ではどういう手法が使われたのかなど、小説の材料にできるのでは―と思いながら切り抜きました。
逆に、連載中の「熱風団地」もそうですが、小説の大枠、根幹の部分で記事を参考にすることはありません。やはり実在のものがあると使いづらいですし、引っ張られてしまいますから。ただし、文章を書くうえで事実関係が細かく、本物っぽい方が、全体の〝嘘〟をつくのが小説ですから。
産経は国際情勢に関する記事など他紙にはない情報もあり、興味深い新聞です。また、中国や北朝鮮などに対して厳しいスタンスを持って臨んでいます。記事のすべてが一方的に正しいとは思いませんが、そのスタンス自体は読んでいて嫌な気持ちになりませんし、ここまで個性がはっきりしている新聞はなかなかありませんので、面白いと思っています。
掘り下げた情報
新聞の良さは「自分で考える時間」を持てることです。テレビではニュース映像を見て「おおー」と驚いている間に次の話題になり、CMが入り…と流れが速い。刺激的ですが、内容は忘れてしまいます。ところが、読むことは能動的な行為です。活字を取り込むことで受けた印象は、新聞を読み終えても頭に残ります。記事は記者が(当事者や関係者に)取材し、何が起きたかを再構成した「掘り下げた情報」です。ニュースと自分との関係を能動的に考えるきっかけにもなります。
「熱風団地」では、主人公の佐抜克郎と(相棒の)ヒナはまだ「アジア団地」ですが、これから、さまざまな〝冒険〟をしていきます。私の世代にとって、新聞小説は花形の存在でしたし、今でも作家としてのひのき舞台というイメージが残っています。自分が取っている新聞を毎朝開いて、「そういえば俺の小説が載っていたんだ」と思い出すのは面白いものですよ。