第27回 (2011/6/17)
青春っていいな〜
「榎木津はね、あれはあれで、榎木津と云う面を被って暮らしてるんですよ。何も被ってないように見えるし、本人もそう振る舞っているけれど——あれはそういう面なんですよ」
『百器徒然袋—風』 京極夏彦
講談社文庫 … P825
 中禅寺の榎木津に対する理解の深さと、幹麿氏の息子に対する愛情の深さが窺える台詞です。
 特殊な能力を持ってしまった息子に帝王学を施すことで、いじめなどの成長過程における人格形成を保護した末に確立された榎さんの面・・・さすが榎パパです。
 追難の儀式がやりたい理由を、普段下僕扱いの薔薇十字探偵団のためだとは意地でも口にしない榎さんの優しさと、黙って理解し協力する中禅寺。10年来の付き合いの深さがうかがい知れます。
 最後にきちんと本島君の本名を宛名に書くあたり、榎さんの照れ屋さんな部分も出ていてかわいい♪ 最高のエンディングでした。
たらの芽 44歳 女性 岐阜県

コメント爺爺のコメント  榎木津の面をはがしてみたいなあ。たらの芽さんがいう、優しさや照れ屋なところが面の下にあるんじゃろうか。だったらなおのこと、ベリベリっとしたくなる爺であった(笑)。

「信じてくれなくてもいい。でもね、もし高坂さんが僕だったら、僕みたいなガキで、まだ世間のことなんかよくわからないのに、見たくもないし聞きたくもないものを知る力を持って生まれちゃったらどうする? そしたら—そしたら自分のできるかぎりのことをして見たこと聞いたことをどうにかしなきゃって思わない? 僕と似たようなことをやらないって言い切れる?」
『龍は眠る』 宮部みゆき
新潮文庫 … P113
 もし私だったら、「同じことをするかもしれないし、やらないなんて言い切れない」と答えると思います。
 それは私が女性で、さらに感情を大事にしたいと思っているからなんでしょうね。
 でも多分、慎司が認めて欲しいのは私のようにすぐ信じる人じゃなくて高坂さんみたいにちゃんと疑ってそれでも考えてくれる人なのかも。
 超能力の話は、もし自分が当事者だったら?とか、家族や友達だったら? とか、すごく空想の世界が広がるのでとても考えさせられます。
 そしてそれが楽しいです宮部先生!!
ミカヅキ 30歳 女性 神奈川県

コメント爺 爺のコメント 知らなくてもいいことを知ってしまうのは辛いのう。爺ぐらいの歳になると黙ったままあの世までもっていけばいいだけじゃが。老い先短いワシじゃが、世の中の役に立ちたいとは思っておるんじゃ。そのための超能力があればな。

「スパイの仕事は刺激があるでしょうし、面白いかもしれません。でも僕は、世界のカラクリを裏側からいじくりまわしたいとは思わない。日曜日にファミリー・レストランに行って千五百円のステーキディナーセットを家族に食べさせて喜ぶ、平凡なサラリーマンパパでいたいんです」
『不思議の国のアルバイト探偵』 大沢在昌
講談社文庫 … P330
 スパイにならなければ殺すと脅されているときにこのセリフが言えるところがすごい。
 危機に陥った隆君が相手の神経を逆なでつつ活路を探る情景が目に浮かびます。
 倫理的に疑問が持たれる職業に就く人が自分の行為を正当化するために誇大妄想に取りつかれることは多々あります。スパイを優れた外交官に准え、歴史の歯車を大きく変えうる存在と信ずる粕谷とクロードの弱みを的確に捉え、いきなり急所にさっくりとナイフを突き立てるような攻撃は見事と表現するしかありません。
 涼介親父の教育の賜物というより、隆君が持って生まれた才能なのでしょうか。
 涼介親父はぶったまげたように隆君を見つめていたそうですが、きっとここまで出来が良いとは想像していなかったのかもしれません。
 隆君は窮地に陥っても決してあきらめない。後のページでそのことが明らかになります。
 彼はいずみに対して、「わからないよ。殺される前に逃げだせるかもしれない」と言いますね。まったく出来の良い息子さんです。涼介さんおめでとう。
Yokohama_Middle 43歳 男性 神奈川県

コメント爺 爺のコメント 高校を三年で卒業できるか悩んだり(第5回)、サラリーマンパパになりたがったり、ピンチのときに発揮される隆の「平凡主義」は見事じゃのう。これは持って生まれた才能だとワシは思うぞ。

「馬鹿なことを云いますね。僕は犬だろうが毛虫だろうが便所の蓋だろうが男だろうが老人だろうが、可愛いと思えば可愛いと云うし、不細工だと思えば不細工だと云うのです。女性にだけ云ってはならないと云うは納得できない。可愛いものに分け隔てはない! 国境もない」
 女性は一層きつい口調になる。 
「それはあなたの基準に基づく判断でしょう」
「勿論です! それ以外に可愛さの基準がありますか! ない」
『絡新婦の理』 京極夏彦
講談社ノベルス … P464
 エノさんらしい…。吹き出してしまいました。美江さんとエノさん、言ってることが微妙にずれてます。認識の違いかな?
 それにしても、私も一般的に「気持ち悪い」といわれるものを可愛いと思ってるので、こんな友達が近くにいればなぁ・・・と思いました。
 とにかく国があるところにしか国境は無いですもんね。
とんじょ ??歳 女性 大阪府

コメント爺 爺のコメント ワシが読んで面白かったから人に勧めたら、ひと言、つまらんと返されたことがあったな。でもワシは負けんかった。自分の価値判断基準が絶対じゃからな。年をとって頑固になっただけなんじゃろうか。

「ありがとう。それなら、よく覚えておいてください。私には、他のどんな美しい姫君やお嬢様よりも、お初どのが美しく見えることがあります。今のように、恐ろしいと思う気持ちと闘いながら、お役目を果たそうとしているときのお初どのは、誰よりも美しいですよ。そういうお初どのは、たとえば私と同じように近眼で、こんな丸い眼鏡をかけていたとしても、やっぱり誰よりも美しいですよ」
『天狗風』 宮部みゆき
講談社文庫 … P537
 いつも照れ屋な右京之助が、お初にむかって、まっすぐに述べたこのセリフを読むたびに、心が打たれます。
 わたしもこんなセリフを言われる女性になりたいです(笑)。
toko 19歳 男性 滋賀県

コメント爺 爺のコメント こんなことを言ってくれる殿方は現れたかのう? 青春っていいな〜。

「大人と子供の境界線は呪術——言葉です。現実を凌駕する言葉を獲得した者こそを大人と云うのです」
『絡新婦の理』 京極夏彦
講談社文庫 … P1095
 大人と子供の境界線は、"責任を取ることが出来るか否か"や"自立"と言う回答をよく見聞きしてきたのですが、常々疑問に思っていました。間違ってはいないのでしょうが、納得は出来ませんでした。
 そんな中で、この中禅寺の科白に出会い、答えを得ることが漸く出来たと感じました。
 しかし、現実を凌駕する言葉を獲得した者なんて、この世に一体どれだけいるのだろうと、少し呆然としました。
 死ぬまでに現実を凌駕する言葉を獲得したいと思います。
まねきにゃんこ 27歳 女性 愛知県

コメント爺 爺のコメント まねきにゃんこさんの志の高さが、爺には眩しすぎる!

「ムービーはどんなときにもビジネスなんだ。莫大な資金をつぎこみ作りだされる作品は、それを超える収入を期待されている。僕はこの島でムービーに携わってわかった。観客が金を払わないムービーは、ムービーではないんだ。芸術であることを認められるためには、まず観客が必要なんだ」
『影絵の騎士』 大沢在昌
集英社文庫 … P642
 映画は芸術だ! って理想で映画作りを目指している人に突き刺さるのがコレ。
 映画以外でもモノづくり業界において、採算の合わない拘りはただの自己満足。
 ビジネスとして成り立つ前提があって初めて、作品への拘りを持つ資格を得る、とこのセリフに改めて諭されました。
masa 27歳 ?? 東京都

コメント爺 爺のコメント  大沢オフィスは作家の映像化を管理しておるでのう、masaさんの理想で映画作りを目指している人に突き刺さる指摘は、グサッときたみたいだぞ。
 読者の皆様がいるからこそ、作家は小説を書くのであって、受けとめていただくからこそ作品は生まれる。採算を度外視したものは、masaさんいう自己満足にすぎない。
 ほんじゃけ大極宮の作家の小説を、ドラマや映画化にする時は、脚本を吟味しておるらしいぞ。

「人間てのは、誰だってね、相手がいちばん言われたくないと思ってることを言う口を持ってるもんだ。どんなバカでも、その狙いだけは、そりゃあもう正確なもんなんだから」
 茜がかかってきた空のどこかで、鳥が鳴いた。
 帰ろうと、私は思った。
『誰か』 宮部みゆき
実業之日本社/単行本 … P361
 まさにその通り! 私は高校三年生の時、友達だと信じて疑わなかった相手から酷い言葉を投げかけられました。20年以上経った今でもトラウマになってる私の心に、このセリフはピンポイントでささりました。
 何も言い返せなかった自分をずっと引きずってきたけれど、この主人公の杉村のお母さんのセリフと、杉村が浜田達に何も言い返さない姿が、私に「それで良かったんだよ」と言ってくれたようでトラウマから解き放たれたかも。
 今まで小説の中の言葉や態度を、小説とは違うシチュエーションの自分に重ねたことがなかった私には青天の霹靂でした。宮部先生、ありがとうございます。
京 41歳 女性 東京都

コメント爺 爺のコメント 京さん、トラウマから解き放たれてよかった、うん、よかった。安寿も喜びますぞ。
 世の中には理不尽なことを平気でいうやつがどえらいおるが、馬鹿や風評に惑わされてはいかんぞ。

「うるさいなあ。何なんだお前。あのな、身の程知らずはどっちなんだ。この縦横奥行き同寸人間。お前なんか頭の上が平らだから手を使わないでも逆立ちが簡単だろうこの行灯男! 怒鳴れば偉いかと思っているようだが、それなら魚河岸の魚屋なんか結構偉いぞ!」
『百器徒然袋—雨』 京極夏彦
講談社ノベルス … P261
 多分榎木津は木場を馬鹿にしてるんだと思うけど、その馬鹿にし方がなんか間抜けで、榎木津らしいな、と思いました。
「縦横奥行き同寸」で、「手を使わなくても逆立ちが簡単」な人って、どうゆう人だよ!? って思うけど、榎木津はいたってマジメなんですよね。
 その榎さんの感性、理解できないけど凄いとは思います。
もともと 14歳 女性 愛知県

コメント爺 爺のコメント 「縦横奥行き同寸人間」ってサイコロみたいなイメージかのう。
 高らかに笑いながら木場をごろごろ転がす榎木津を思い浮かべてしまった。

「だから、物語を綴るという作業は、恐ろしいことなのだ。世界を作り、国を作り、歴史を作り、命を作る。綴られた物語は、作者の”紡ぐ者”がいなくなっても、消え失せたりしない。いつか"無名の地"に回収されるまでは」
『英雄の書』 宮部みゆき
毎日新聞社/単行本(下巻) … P32
 宮部みゆきさんご自身の、物語を綴る"覚悟"を感じました。
りょう 23歳 男性 東京都

コメント爺 爺のコメント 我々読み手も読書の時はその綴られている世界にどっぷりと入り込むものじゃよな。
 りょうさんの仰るとおり、綴る覚悟を感じさせる言葉じゃの。まだまだ元気に紡いでもらうのをワシものぞんでおるのじゃ。

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