第26回 (2010/10/6)
神からのありがたいお言葉
「惚れたとか腫れたとか、浮ついてるンじゃねぇよ林蔵。惚れられて、ああそうですかとくっ付いてそれであの女ァ如何なるよ。惚れてりゃ何でもいいのかよ。お前は」
『前巷説百物語』 京極夏彦
角川文庫…P592
 相手が自分に惚れていると知っていながら、その人の幸せを願って身を引く。すっごいかっこいいんですが、で・す・が!林蔵さんも言ってるように、又市さん格好つけすぎです!(笑) おかげで涙がとまらないじゃないですか!(泣) もう、そんなあなたが大好き←又市さんの信念と情の深さを感じます。こんなにも誰かのこと想えるって素敵ですね。私もそんな風になりたいです。
市松 15歳 女性 三重県

コメント爺 爺のコメント  市松さん、そんな風になりたいとおしゃっておるが、その気持ち。ええのう、一途な思いは。儂はイケズになってしもうぞ。

「良いかね、呪術というものはね、呪術を信じていないものにしか正しく行使することができないものなのだ」
『邪魅の雫』 京極夏彦
講談社ノベルス…P175
 京極堂のこのスタンスは、どの作品の中でも変わることがありません。作中でも「遵法という戒めをかけることで自らの暴走を防いでいる」という形容をされていますが、このような描写を見るたびに、どこか遣り切れない思いに駆られます。
 人の闇の淵に立ちながら、落ちかける人を救い、それでも救えない人がいることに苦しむ。私達が何気なく心の拠り所にしている、幸運や天の配剤を信じる気持ちさえ、彼にはない。その全てを否定して初めて、彼はそれに捕われている人を救うことができるから。
 それが苦しいとか、辛いとか、そんなことは彼は言わないと思うし、常にそんなことを考えつづけているわけでもないと思います。ただ、「普通の人」には望むべきもない深淵に立っているだけで。
 それでも、解っていても(いないかもしれませんが)言いたくなるのです。
おかし 21歳 女性 東京都

コメント爺 爺のコメント 遣り切れない思いに駆られるおかしさん。解っていてもそうなるのは爺とて同 じ。視野が広いうちは内も外もその違いを認識できるが、爺のように、籠りがちだと考えが偏って、肩こりになってしもうた。

「ならばおのれは——冥府に戻れッ!」
『絡新婦の理』 京極夏彦
講談社文庫…P1324
 様々な真実が中禅寺秋彦によって明かされていく中、この科白の場面から最後の惨劇が始まります。
『絡新婦の理』の中では一番印象深いシーンです。手に汗握る展開に、読後は暫し放心してしまった事を覚えています。
 惨劇の場面は情景がありありとイメージ出来てしまい、軽いトラウマになりました。
 しかし不思議と「もう一度読むか…」という気になります。
 これが怖いもの見たさと云うやつでしょうか。そう愚考するとやはり「不思議なことなど何もない」のですね(笑)。
悠悠 19歳 男性 埼玉県

コメント爺 爺のコメント このセリフに込められた思いの受け取り方は、さすがじゃ。ちと乗り突っ込み というか自己完結ぎみじゃが……。

「大馬鹿野郎の竹馬の友が危機一髪と云うんでね。僕は柄になく急いでいるんだ。警察なんか気にすることはない!警察のために急いでいるんだ。僕は馬鹿な友人のために躍動する馬鹿運転手だ!」
『魍魎の匣』 京極夏彦
講談社文庫…P859
 神・榎木津礼二郎に『竹馬の友』とまで呼ばせる木場が同じ男として羨ましいです!
 まあ当人はそんなことを言われても、どてっ腹に風穴あけて糸通すぞ馬鹿野郎とでも返してくれるのでしょうが……。
 その関係性がまた、京極堂シリーズの魅力の一つとも言えます。
sion 28歳 男性 千葉県

コメント爺 爺のコメント 何度も言うけど、榎木津っていいよなー。何やっても「かっこいい」とか「憧れる」とか言われてさ。あ〜あ、爺も言われてみたいわい!

「わかる、わかるよ、貴美子。偉かったな」
亡命者 ザ・ジョーカー 大沢在昌
講談社文庫…P356
 背景がわからないことが魅力のジョーカーに対して、バーの沢井さんが代わりに人間臭さを存分に発揮しているのが「ザ・ジョーカー」シリーズだと思います。
 このセリフはその沢井さんに娘がいたという物語のラストを飾るものですが、奇しくも同じ裏社会に関わる身となっていて、その境遇から好きな人との別れを決断した娘にはじめて父親らしい言葉をかけた瞬間です。
 短い言葉ですが、父として、同じ裏社会に関わる先輩として色々な思いがこもった良いセリフです。
 娘に対する男親の手本じゃないでしょうか。沢井親娘には幸せになって欲しいです。
アヤカス 35歳 男性 東京都

コメント爺 爺のコメント まさか、沢井に娘がいたとは! 爺もひっくり返るほど驚いたぞ。まるで小さ な子供にかけるようなこの言葉が、沢井と娘の離れていた時間を物語っているようで、爺はちょっと切なくなったな。

「変えることができるのは僕だけだ。僕が、僕の運命を変え、切り拓いていかなくてはいつまで経っても同じ場所にいて、同じことを繰り返すだけで、命を終えてしまうことになる」
『ブレイブ・ストーリー』下巻 宮部みゆき
角川書店/単行本…P614
 このセリフ、かなりガツンときます。
 人を羨んだり、不公平だとか言って立ち止まらず、自分を信じて試行錯誤しながら前に進むのがすごく大事なんだってこと、気づかせてくれました。これだから本を読むのはやめられません。
 あと前回投稿した時の、爺のコメントを読んだら何だかとてもホロリときました。
ミカズキ 30歳 女性 神奈川県

コメント爺 爺のコメント  おー、そうかそうか。ワシのコメントにホロリときてくれたとは、嬉しいことを言ってくれるのお。あと50年はやれそうな気がしてきたぞ!…50年後はたぶんワシ仙人になっとるな!

「お、お前みたいな人間に解るかよ。私の苦労が。嫌でも辞められないんだよ。 辛くても別れられないんだよ。辛くて辛くてやってられないけど、もう限界だけど、それでも止められないんだ馬鹿野郎」
『死ねばいいのに』 京極夏彦
講談社/単行本…P63
 小説の醍醐味に共感がありますが、これほど共感されるセリフもない気もします。
「死ねばいいのに」は全編共感できる生き難さへの恨み節ですが、最初に出てくるこれが一番印象に残りました。
 共感できる苦しみを見せるからこそ「死ねばいいのに」という言葉も生きるわけですしね。
アヤカス 35歳 男性 東京都

コメント爺 爺のコメント この台詞は爺もほんとうに共感できるぞ。しがらみとやらで、止めたくても止められないことは数えきれんぐらいあったな。まあなんだな、ぜ〜んぶ捨てればラクになるのかのう。

「では何故に乱れるのです——」
「あなたは——本当に悲しんでいた訳だ。肉親を、友人を殺し、見ず知らずの者を巻き込み乍ら——」
「悲しんで——いましたとも」
『絡新婦の理』 京極夏彦
講談社文庫…P22
 冒頭の、桜の舞う中対峙する京極堂と犯人のやり取りです。
 たった一人になっても虚勢を張り続けた犯人の心の動揺を、ずばりと射抜いた短い言葉。
 我を忘れ、ぼろぼろと崩れていく犯人と、その痛々しい姿に、追い詰めながらも憐れみを禁じえない京極堂…。
 このシーンの美しく切ない会話の中でも、必死に強がっていた彼女が、たまらずに本当の気持ちを吐露してしまうこのやり取りがいちばん好きです。
しゅーいち 30歳 女性 福岡県

コメント爺 爺のコメント 爺もこの腹の中にたまっているものを、全部吐きだしてしまいたいのう。 どうでもいいようなことばかりじゃが、長く生きているといろいろたまるんじゃ。おかげで、ほら腹がこんなにメタボに。それは関係ないか。人間だれしも弱いんじゃ。ためきれなかったものが、思わず出てしまうんじゃろうな。

「世間は違っているものを訝しむし、社会は規範から外れたものを排除しようとするんだよ。」
−中略−
「親の身分だの地位だの家の場所など大きさだの職業だの役職だのが、一体何の証になるんだ?そんなものは酒のつまみにもならんぞ。」
−中略−
 くだらないねと榎木津は云った。
『邪魅の雫』 京極夏彦
講談社文庫…P1011
 私の大好きな神からのありがたいお言葉です。
 結局、周りじゃなくて自分は自分なんだなぁ、って改めて思いました。よく周囲を気にしてしまう私にとって、この言葉は衝撃的でした。
 自分らしくいきたいなぁ、と思います。
ぐみ 17歳 女性 宮城県

コメント爺 爺のコメント 周りを気にしすぎて、くよくよしても仕方がないということだな。爺みたいに 好き放題に生きていると、そんなことどうでもよくなるんじゃ。自分が楽なのが 一番。それが長生きの秘訣じゃな。それにしても長く生きすぎたかのう。

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