第17回 (2008/11/14)
大極宮の順に並べてみる

「人は誰でもひとりぼっちだと思うことがある。どんなに家族に愛され、友人に恵まれても、どうしようもなくひとりぼっちだと思うことはあるんだ。だから人間なんだ。だから芸術や宗教も生まれるんだ」

『雪蛍』 大沢在昌
講談社(単行本) … P300
 このセリフだけ読むと通俗"人生書"の一節だが、重いテーマと長編の本書で難しい議論が続いた後、この分かりやすいセリフでほっとする。
 しかもこの場面、ホタル青年が"立ち直り"に向かう最終場面で発せられたものだ。
 しかし、青年はこのセリフが最後の"ひと押し"となった様子はなく=混乱する彼の頭の中を素通りしたセリフではないか=、それほど切迫した場面なのだ。
 小生、この歳になると若者と話す機会がなくて理解する・できないの問題を超え、同世代とも話が通じないことが多い。大沢氏に"老人探偵"キャラの創設を望む。老ヤクザが更生して、とか。
フーライ 65歳 男性 神奈川県

コメント爺爺のコメント  ワシも、フーライさんに一票! 老人ヒーローを望むぞーい!

 ウラは新たなるミカンに手をのばした。頬ばるといった。
「今度のはうまい」
 少女が静かに泣きだした。
『らんぼう』 大沢在昌
新潮文庫… P327
 なんて答えていいかわかりませんが、このセリフは好きです。
 このお話を知らない方には申し訳ありませんが、このセリフですべてが救われました。
 もちろん、この前のイケさんとウラさんのやり取りや、静かに泣いた少女の立場がわからなければ、ミカン食べて美味いと言って何が救われるんだって思われる方は多いでしょう。
 それでも救われたんです。そんなセリフでした。
 ちなみにこの単行本にもう1つ好きなセリフがあり(みんな好きですよ、この単行本のセリフ)401ページの(解説です。あの方の)「どうみても、これから出稼ぎに行く福建の兄妹(ええおべべがこれまた晴れ着並みにういてて)」というくだり。
 今回の趣旨とは異なりますが、僕は好きですね。
どうもこうも 29歳 男性 静岡県

コメント爺 爺のコメント 新潮社文庫版の"あの方"の解説は最高じゃの〜。何度も読み返して、笑わせてもらったわい。
 ワシも「らんぼう」には、好きなセリフがたくさんあるんじゃ。今度、「爺が選ぶ名ゼリフ特集」をやってもいいじゃろうか。

「あなた達が誰でもいい。最後に、最後にこの、勝手に死んだ馬鹿な天狗たちに─弔いの」
 弔いの言葉をば掛けてやってくださいませ—─。
 百介はそう言った。何故か泪が止まらなかった。
『続巷説百物語』 京極夏彦
角川文庫… P761
 もうこの一言が何故だか分からないけれど、全てを物語っている気がしてしまったんです。
 又市達との関りや想いや別れの決意とか。 勝手な思い込みですが、そう思えてきたら途端に泣けてきてしまって。
 弔いの言葉をば掛けてやってくださいませ─。 この一言を言ったとき、百介はお辞儀をしながら下を向いて泣いている姿が浮かびました。
 グっと歯を食いしばって泣くのをこらえても泪が溢れてくる……。そんな姿を勝手に想像して、更に泣けてきました。
 地下鉄のホームで半泣きで読み終わり、自宅に戻ってラストシーンを読み返し、ボロ泣きしました。
  又市が百介の気持ちに応えるように言った最後のあの台詞でもう泪ポロポロポロポロ。
 小説でこんなにも泣けたのは初めてでした。
tocomo 33歳 女性 東京都

コメント爺 爺のコメント これが最後の別れのとき、どんな言葉をかけるか難しいのお。ワシなんかしどろもどろになって気の利いた言葉なんか浮かびそうにないが。思いの深さ、それだけなんじゃろうな。

「あなたが——蜘蛛だったのですね」
『絡新婦の理』 京極夏彦
講談社ノベルス… P8
 最近、ほぼ毎日のように耳にしているのです。
 何故かって? 陰陽座という自称「妖怪ヘビメタバンド」をご存知ですか? 彼らの歌には英語が存在せず、古語を使った歌詞、そして妖怪の名前を戴いた曲がある。そんな特徴のバンドです。彼らの曲の中に「桜花ノ理」という曲がありまして、その中でこの台詞をボーカルの瞬火(またたび)が言っているのです(歌詞カードには書いてませんが)。
  他「眩暈坂」という曲もあります。ゼヒゼヒ聴いてみてください!
 まぁ、毎日のように陰陽座の曲を聴いているのですが、そのせいか脳に刷り込まれた台詞と相成りました(笑)
  ……著作権問題上、マズかったかしら?
五月菜々 30歳 女性 東京都

コメント爺 爺のコメント 難しいことは爺はわからんが、このセリフのようなシンプルなものに厨子王は、とやかく言わんぞい。
 爺は張子の「絡新婦」が好きじゃ(脱線?)
 小説と音楽の合わせ技で楽しむ五月さん、いいのう。

「あのな坊や」
 中禅寺は低い声で囁くように云った。
「勘違いするなよ。このくらいの覚悟がなくて——」
 威嚇するような眼。
「憑物落としが務まるかッ」
『塗仏の宴 宴の始末』 京極夏彦
講談社文庫 … P1023
 このセリフを読んだとき、思わず「かっこいい……!」とつぶやいていました。
 普段の京極堂らしくない熱さが見られる「宴」ですが、その中でもこの覚悟についての言葉!
 自分を語ることの少ない京極堂だけに、その重さと怒りが伝わってきます。
 いつもいつも、憑物を落とすとき、黒装束になるとき、そういう覚悟はしていたのか、と苦しくなります。。
貴志えり 26歳 女性 東京都

コメント爺 爺のコメント 確かにこんなに熱くなる中禅寺は珍しいのう。
 ワシも言ってみたいのう…。「あのな坊や」なんてセリフ。
 電車の中の優先席で、ふんぞりかえっている若者に吐いてみたいセリフじゃ。

「もう少しご自分を大切にされた方がいい。あなたに何かあったら——悲しむ人も居ます」
「あんた悲しんで——くれる」
「ええ」
「上手よねぇ。どうしてあんた女口説かないの」
「物憶えが良いもので——嫌われてしまう」
『塗仏の宴 宴の始末』 京極夏彦
講談社文庫 … P742
 そうだろうな、と思わず納得するセリフです。この後に続く木場について素直になれない感じで話す潤子さんのセリフも魅力的なのですが、あえてこちらを。
 なんだか大人の男女の魅力にあふれた会話です。確かに京極堂くらい記憶力が良すぎると、ちょっと……と思う反面、京極堂が本気で口説けば、その口先でほとんどの女は丸め込まれて堕ちてしまうのではないかと思わせる会話です。
 そう考えると、千鶴子さんをゲット(!?)する際の中禅寺はどうだったのだろうか、ものすごい呪いをかけるくらいの気迫のしゃべりで上手く丸め込んだのか、もしくはあの中禅寺が上手く話せないほど惚れ込んでたどたどしく口説いたのか(想像出来ないだけにそんな中禅寺を見るとくらっとする事間違いなしですね!)、千鶴子さんが上手く誘導したのか(これが一番ありそう!?)などと、想像させるセリフでした。。
貴志えり 26歳 女性 東京都

コメント爺 爺のコメント 貴志えりさん二連発いってみたぞい。
 聞かれてないけど告白すると、ワシが婆さんに言った口説き文句は……
 えッ? 聞きたくない? だと思った!
 皆さんのご想像におまかせします。

「あなた自身を見つめなさい。憎しみと怒り、優しさと勇気。どちらも等しくあなたのものぢゃ」
『ブレイブ・ストーリー』 宮部みゆき
角川文庫(中巻)… P425
 国天文台でのバクサン博士の言葉に感動しました。
 自分自身を見つめるということはとても辛く、ときには恐怖感も抱くことだと思いますが、自分の人生にとっても周囲の人達にも利益をもたらし得る、とても有意義なものだと思わされた一文です。
MとN  17歳 男性 東京都

コメント爺 爺のコメント  自分を冷静に見つめられる人などそうそういるものじゃない。真の自分の姿から目を背けたいのかもしれん。
  じゃがたまには「自分」について考えるのもわるくないぞ。

 そばに誰もいない人間は、歳をとりはするものの、歳を数えることはしない。誕生日を覚えていてくれる者がいないからだ。人は誰も、自分のために歳をとったりしない。
『長い長い殺人』 宮部みゆき
光文社文庫… P115
 私は自分の歳をすぐに答えることができません。なぜ覚えていられないのか不思議でなりませんでした。やっと答えが見つかりました。
はなやぎ 47歳 女性 東京都

コメント爺 爺のコメント 小説の文脈とは違う世界観で、己の価値を見出す。
 はなやぎさんのコメントは、なかなかじゃ。物語を味わい、そこに紡ぎ出されたセリフをヒントに自分なりの答えを見つけた。
 このセリフは爺も、なかなか心に沁みたぞ。

手に入れたものはみんな宝物だけど、手に入れられなかったものは、もっともっと宝物なんですよ」
『誰か』 宮部みゆき
文春文庫… P157
 何となく胸に染みた台詞。
 世の中、簡単に手に入れられるものがあるかと思うと、絶対手に入れられないものもあると思います。
 自分の努力さえあれば出来るものもあればいくら努力しても出来ないものもありますね。
  だから大事なのはその境目を見極めることの難しさを感じさせます。
青大将 49歳 男性 韓国

コメント爺 爺のコメント 手に入れたいもの、努力しても手に入らないもの、その境目を見誤っての苦労や失敗というのもワシも数多くしてきたのう…。
 ただ最初からあきらめて、努力することを忘れてしまうと、手に入るものも手に入らずに終わってしまう、ということもあるからのう。
 何事にも努力する姿勢というのは、ワシは大事だと思うのじゃよ。

「死んでてくれ、どうか死んでてくれ、お父さん。そう念じながら、喬子はページをめくってたんです。自分の親ですよ。それを、頼むから死んでいてくれ、と。僕には我慢できなかった。そのとき初めて、喬子のそういう姿を浅ましいと感じてしまった。それで、僕のなかの堤防が崩れちまったんです」
『火車』 宮部みゆき
新潮文庫 … P456
 官報のページから父親を探す新城喬子の哀しみが、よく現れている台詞だと思う。
 倉田の思ったことは、恵まれた環境に育った人間なら、感じてしまうことなのかもしれない。
 そばにいれば、私でさえもそう思うのかもしれない。
 彼女は、父親の死を確認出来ない限りは、苦しみから解放されないのだ。
 そして、幸せになることが永遠に出来ないのだ。
 新城喬子は、いつも追われていた。
 親も元夫も法も、誰も助けてくれなかった。
 素敵な家に家族と住み、幸せに暮らす。過去の哀しい出来事があったからこそ、そんな幸せを彼女は心に描いていたのだ。
 彼女を、法も親も元夫も誰も救うことが出来なかった。私は、この台詞から、それを痛感した。
りる 14歳 女性 長野県

コメント爺 爺のコメント お若いのに「火車」を読まれて、しかもこんな感想をもたれたとは、立派じゃの〜う。
  爺の出る幕なし!

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