第14回 (2008/6/13)
それもアリ
「お前、帰ってどうするか。今日こそは原稿取って帰らんと編集長に折檻されるとか言うておったじゃないか。いいのか折檻。好きか折檻」
 色部は振り向き、真顔になって、
「程度によります」
『どすこい。』 京極夏彦
集英社文庫… P253
 募集を見て、目をつぶって本を選び、目をつぶって開いたページで、うっかり真っ先に目に飛び込んだ一言。
  そして、うっかりノックダウンする私。
karume 21歳 女性 愛媛県

コメント爺爺のコメント  そのチョイスの仕方は……名ゼリフとして良いものか? 確かにノックダウンされるけどな。
 ま、それもアリ、ということにしておこうかのー。はっはっは。

 会いたかった。あなたはあたしの妹で、だからもう怖がることなんかないと言ってあげたかった。
「だけど、会わなくて、良かった。あの子が、あたしみたいな、人殺しを、見ることがなくて、よかった」淳子は微笑した。「見れば、心に、残ってしまう、から」
『クロスファイア』 宮部みゆき
カッパノベルス(下巻) … P268
  宮部さんの作品に出てくるの人物の中でも突出して印象深い青木淳子の言ったセリフ。宮部さんはなんていう人物を作り上げてしまったんだろうと、何度読んだか分かりませんが毎回思います。もうこのセリフの辺りでは涙ボロボロでこらえるのに必死だった。淳子のこのセリフが私には1番悲しく聞こえました。
「見れば心に残ってしまうから」このセリフを微笑みながら言う淳子の顔があまりに悲しく鮮やかに浮かぶ…顔なんて分からないから錯覚だけど。
 宮部さんの本を読むと私は必ずこういう感覚に囚われます。決して主人公になりきったりするのではなく、その場に、まさに本の中に入っている感じ。物凄い臨場感。私は元々妄想癖があるので現実世界に戻るのが大変で、読んだ後しばしば思い出し泣きをしました。
 見れば心に残ってしまう。これは真実です。どんなに事実を聞いたところでそれはただ事実であって、真実ではない。(こんなような言葉も宮部さんの作品で読んだ気がするが思い出せない!)武器として生きることを使命のように感じ生きていた淳子が結局自分を最後に肯定できなかったから出た言葉かなと思い、とても痛かった。
青い鳥  27歳 女性 東京都

コメント爺 爺のコメント 青い鳥さんは小説世界に嵌まり込んでしまうのじゃな。主人公の生き方に共鳴し、死を悼む。分かるな。爺もそうじゃから。それが読書の醍醐味だから、これからもいっぱい読んで感動を味わってくだされ。

 僕は返事の代わりに、サイドボードの上のキイホルダーを取ると、沢辺のために扉を開けてやった。
「悪いな」
 視線が合い彼はいった。
「何が? ドアを押さえててやることか。そうだな、男のためにこれをしてやるのは初めてだよ」
『感傷の街角』 大沢在昌
角川文庫 … P 316
 以前、足を骨折した友人のために僕がドアを開けてやった時、その友人に沢辺とおなじことを言われたことがありました。
 そのとき僕は「こんなことでお前にお礼をいわれるなんてな」と言って笑ったんですが(このとき小説のセリフは忘れてた)、家に帰ってからこのセリフを思い出したとき、公と沢辺の友情の強さを感じましたね。
魔王 19歳 男性 三重県

コメント爺  爺のコメント 魔王さんも友人の彼も、そのとき、ほんの少し照れ臭かったのじゃないかな。男が男に優しいことをする時、お互いばつが悪いというか、こっ恥ずかしいというか。いやはや、男の友情はときに可愛いものじゃ。
 魔王さん、たくさんセリフを送ってくれてありがとう。おいおい紹介させてもらうでのー。

「よいか中禅寺。世間の馬鹿どもはな、長いスパンで物事を考えることが出来ないのだ。そのうえ無反省だ。食い物が、環境が、文化が生き物としての人を変える。肉体こそ精神だと云う単純な理屈が解らぬ連中が、世界を壊す。愉しいじゃないか。自然界に存在し得ない音を聴き、自然界に存在し得ない色を視て、自然界に存在し得ない物を食って、その後で人がどうなるか。遠からず子は親を殺し親は子を食う世の中になるぞ」
『塗仏の宴 宴の始末』 京極夏彦
講談社ノベルス… P628
 発売された当時は、あまり自分の中でピンとこないセリフの一つでした。でも、今私の地元もコンビニに強盗が押し入るようになり、随分物騒になってしまいました。このセリフに不安を抱くようになったのは、最近になってからです。私も何か変えなくてはーと思うのです。
 取りあえず、私には食生活改善から!
「ロハスですよ」と家族に呼びかけてみます。
織草 茜 21歳 女性 愛知県

コメント爺 爺のコメント 最近は食べ物が恐ろしいことになっとるから、ワシは婆さんと家庭菜園を始めましたぞ〜。収穫した野菜は美味しいし、婆さんと仲良く土いじりをして夫婦円満…むふふ。

「ミツルはあんたの友達だ。きっと大切な友達なんだろう。だけど、それでも、もしもあんたがミツルのやり方を許せないと思うのならば、あんたは行動しなくちゃいけない。黙っていてはいけないんだ。わかり合えることなんか期待しちゃいけないけど、諦めてはいけないんだ。あんたが許せないと思うのなら、許せないということを伝えなくちゃいけない」
『ブレイブ・ストーリー』 宮部みゆき
単行本/角川書店(下巻) … P352
 先を行くミツルに戸惑い、諦めていたワタルに対してカッツさんが放った言葉。ワタル以上に私の心をもろに直撃しました。
 どんなに言葉を尽くしても、どんなに心の全てをぶつけても届かない相手には届かないんだ、と、それがこの世の習いなんだと思っていた私にとってこの言葉は、私の歩く先を照らす一筋の光のように光って見えました。何度も何度も朗読しました。そのたびに何度も何度も心にがんがん直撃しました。
 わかりあえなくても伝えること、その言葉は本当に私の中ではまさしく名ゼリフです!
そら 29歳 女性 茨城県

コメント爺 爺のコメント 言葉のもつ力は重く、友達だからこそ、の行動じゃな。信じることから全ては始まるのじゃ。嘆く前に行動せよ、メッセージを発せよということじゃ。

「セニョリータ。あなたを囲む世間があなたに求めていると思われることや、あなたにできるかもしれないことや、あなたがそうしなくてはならないと思いこんでいることばかりをやろうとなさいますな。いちいち考えていては、生活などできません。気の利いたことが言えなければ、黙っておればよろしい。可笑しければ笑い、気分が悪ければむくれておればよろしい。それが大人げないと思ったならば、がまんをすればよろしい」
『ドリームバスター2』 宮部みゆき
単行本/徳間書店 … P144-145
 私も、D・Pの理恵子のように、自信が無いときがある。そういう時にこの言葉を思い出している。
 自分を世間のお荷物だと感じたり、周りの人間よりも自分が下等だと思ったりすることも、理恵子と同じように、私にもある。
 周りとうまくやっていく自信が無く、自分は勘定外だと思い、一人になってしまうこともある。
 そういうときは、この言葉を何度も何度も読んだ。
 マエストロの言う通り、いちいち考えず、何もいえなければ黙り、可笑しければ笑い、気分が悪ければむくれる。
 私は深く思い悩んでしまうことがあるが、この言葉でそれを吹き飛ばしてしまえそうである。
 生きるのが苦しくなくなる、大切な方法なのかもしれない。
りる 14歳 女性 長野県

コメント爺 爺のコメント りるさん。自然体が一番じゃ。安寿の紡いだ物語がりるさんの癒しになるなら、安寿も本望だわい。

「でもわたくしはこんなこと恥ともなんとも思っていなくってよ。こんなつまらないことで傷つくような自尊心は持ち合わせておりませんから」
『鳴釜(百器徒然袋—雨)』 京極夏彦
講談社ノベルス… P152
 美弥子嬢が大好きです。
 格好良すぎです。
 カマじゃないけど惚れます!
 ちょっとでもバカにされると反撃に出る男らしい自尊心より、他人になにを言われようと揺らがない自尊心のほうが上等だし格好良い。そうありたいものです。
 美弥子嬢の再登場を切に願っております。
りょく 22歳 女性 東京都

コメント爺 爺のコメント  ホントに格好良いセリフじゃのう。そこらへんのすぐうじうじ悩む男連中に美弥子嬢の爪の垢でも煎じて飲ましてやりたくなるのう。
 ワシもこういう女性が大好きじゃ。再登場に期待じゃな。

 僕に教えてくれた人の話を。いちばん速く駆けるものが必ずしも勝つわけではなく、勝っているように見えるものが必ずしも勝者ではないということを。賭ける価値があるかどうか見定めるために、やっぱり賭けねばならないものがあることを。
『今夜は眠れない』 宮部みゆき
角川文庫… P276
 ジーンと心に響くセリフ(ってゆうか語り口)です。
 ティーンエイジャーの皆様にぜひ読んでほしい。
 この一節は、宮部さんが君たちに贈るエールだよ!
ちい坊 39歳 女性 新潟県

コメント爺 爺のコメント 安寿のエール! ちい坊さん言うとおりじゃ。
 思わぬ大金が入った家族の崩壊から再生。この物語のラストにでてくるこの言葉はシミルワイ。爺はとくに「やっぱり賭けねばならないものがあることを」が好きじゃ。

「楽しかった」
「これからも楽しい」
『夏からの長い旅』 大沢在昌
単行本/角川書店 … P186
 主人公が、これからの悪者との勝負を前に、親友夫妻と束の間の心やすらぐ一時を過ごした最後の夜。
 ヒロインと主人公が交わすこのセリフ。
 書き出してみるとなんてシンプル。 実際はこの数頁後には、二人の乗った自動車を狙撃されたりといった命を掛けたシーンがあるんだけれど、この、さりげなくかっこいいセリフ。
 私自身も、これを参考に、その後何かにつけ「楽しかった」と言われたら「これからも楽しいゼ」と返すことにしていますが、誰が言ってもかっこいいわけではないので要注意。
 もう一つ。私の記憶の中では、
「楽しかったわ」
「これからも楽しいさ」
 だったのですが、改めて本を開いて確認してみると違っていました。文字ではぶっきらぼうに表現しているのに、映画のワンシーンのように記憶に残っていたわけです。
 幾多の大沢さんの作品の中で、ベストを問われたら私は迷わずコレです。
zo3 49歳 男性 香川県

コメント爺 爺のコメント さりげないからこそ、TPOが重要になりそうなセリフじゃのー。zo3さんが、うまく格好良く使いこなしてくれていることを祈るぞ!
 ワシが驚いたのは「単行本」のところ。 この単行本が出た頃、山椒大夫はまだエーキュー初版作…(ゴホゴホ)だったはず。まさに超レア本じゃ! 長く愛読してくださってありがとう、と大夫にかわって礼を言わせてもらうでのー。
(ちなみに角川文庫ではP198に載っておるぞ)

「寝惚けてやがると土手ッ腹に風穴開けて紐通すぞコラ!」
『瓶長(百器徒然袋—雨)』 京極夏彦
講談社ノベルス… P260
 紐通してどうするんですかいったい。
 この手の木場や榎木津の罵倒文句のモノスゴサには、いつも驚き呆れ感心し笑ってしまいます。
 一度やってみたいのはやまやまですが、絶対噛む。
高砂屋 37歳 女性 北海道

コメント爺 爺のコメント 榎木津、木場の罵倒語録みたいなものがあったら読んでみたいのう。
 特別企画でやったら、面白いかもしれんの。
 高砂屋さん同様、ワシも噛むじゃろなぁ。

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