第9回 (2007/8/10)
爺、夏バテ知らず
「伯爵のお悲しみは僕などには到底想像も出来ないほど深いのだろうと思います。僕も悲しい。でもそれは——多分、伯爵の胸から漏れて来る悲しみを吸い取っているようなものなのでしょう」
『陰摩羅鬼の瑕』 京極夏彦
講談社ノベルス … P632
 しんみりとした優しさが心に沁みます。
 関君の他人に対する台詞は哀しい美しさがあるような気がします。大好きです。
蛍燈 17歳 女性 大阪府

コメント爺 爺のコメント ふむ、悲しみの受け方というのは、自身で感じる事や思う事より自分以外のものの影響の方が強いような気がする。
 関口のこのセリフは、物語の終末にむけての伯爵と関口の会話の一部じゃが、蛍燈さんコメントのしんみりがはまってるようじゃ。

「それはそうだろうよ。幸せになることは簡単なことんだ」
 京極堂が遠くを見た。
「人を辞めてしまえばいいのさ」
 捻くれた奴だ。ならば、一番幸福から遠いのは君だ。そして、私だ。

 私は想像する。
 遥かな荒涼とした大地をひとり行く男。
 男の背負っている匣には綺麗な娘が入っている。
 男は満ち足りて、どこまでも、どこまでも歩いて行く。
 それでも
 私は、何だか酷く———
 男が羨ましくなってしまった。
『魍魎の匣』 京極夏彦
講談社文庫 … P1047-1048
 人は人であるからこそ、生き難く苦しむ。
 私も男を羨ましく思い、そして柵から逃れてみたいと思いつつ、行ってしまえば帰ってこれないという恐ろしい場所に恐怖して踏みとどまった一人です。
呂布奉先 23歳 男性 大阪府

コメント爺 爺のコメント "人を辞めた人"もしくは"人を辞める行為"を羨ましく思う……人にはそんなところがあるな。でも、実際にその人(その行為)を見たら「辞めなくてよかった」と、きっと思うはずじゃ。
 小説を読むと、爺のような年齢になっても普段は考えないようなことを考えさせられることがあるから面白いんじゃ。縮んだ脳みそには刺激になるからの〜。呂布奉先さんはお若いから、しわがいっぱいの脳みそが"みっしり"詰まってるんだろうなぁ。ワシにはそっちの方が羨ましい。

 迷惑を掛けたな——。
 榎木津はそう云った。
「め、迷惑って」
「君は関係ないのになあ。馬鹿だなあ」
「し、知ってたんですか?」
「何を?まあ下僕の動向など僕には手に取るようにワカル。判り過ぎて耳が痒くなりそうだ」
「ひ」
『邪魅の雫』 京極夏彦
講談社ノベルス … P664
「あの」神と自称する榎木津が、よりにもよって下僕の益田に謝るとは…! 天地がひっくり返ったかと思いました。しかも直前まで散々下僕扱いしておいてです。
 けれども、何時になく軽薄な調子が出なくて落ち込んだ様子の益田を、榎木津はそんなことはおくびにも出しはしないけど、やっぱり心配していたのだろうなあと感じました。
 相変わらず神と下僕の関係に変わりはなくとも、何かの絆が生まれてきていることが垣間見えるセリフだと思います。
美紗 18歳 女性 石川県

コメント爺 爺のコメント 美沙さんはお若いのに、人間関係についてデリケートな気配りが出来る方と見受けたぞ。爺ほど年をとると周りの事などは面倒になってじゃいいかげんになるもんじゃが、ほんまに榎木津関連の投稿は多いわ。

「どこにいたって、怖いものや汚いものには遭遇する。完全に遮断することはできん。」
 それが生きるということだ—
『名もなき毒』 宮部みゆき
単行本/幻冬舎 … P468
 今多嘉親が家に語りかけるように呟く言葉です。生きているということは楽しいものや嬉しいものがあるだけではなく、それらがあるように怖いものや汚いものがあるんだなと思いました。
黒ごま 16歳 男性 岐阜県

コメント爺 爺のコメント 汚いものや恐いものから目を背けたいのが人情というものじゃ。そういうものがあるからこそ楽しさや嬉しさが倍増するのかもしれん。まだ16歳、辛さを乗り越えた先に楽しいものがあると信じて頑張ってくれ。

 澤村直晃は、やっぱり最後まで博打うちだった。それは忘れちゃいけない。彼は骨の髄まで博打うちだった。
 だけど、彼の最後の大博打を、彼に代わってやりとげたのは、ほかでもない僕の母さんだった。そこで賭けられたのは、金じゃなかった。いつか島崎が言っていたような、澤村直晃という男の存在そのものでもなかった。
 僕の父さんだった。
 緒方行雄の心だった。
『今夜は眠れない』 宮部みゆき
角川文庫 … P272
 特に親の仲が悪いわけではないけど、ここを読むと何か大きなものが、大切なものが手に入ったような気がします。
 主人公・雅男の驚きと嬉しさの混じった気持ちが感じ取れるような気がしました。
藍色烏 13歳 女性 京都府

コメント爺 爺のコメント 夫婦間の愛情の深さを推し量ることは実の子供にも難しいものかもしれん。藍色烏さんの両親は喧嘩もあまりしないのかな。両親の間に大問題が持ち上がったとき、雅男と同じ気持ちになれるといいのう。

「女って、いつもは嫌でも今この瞬間なら抱いてほしいってときがあるじゃない」
『屍蘭 新宿鮫III』 大沢在昌
カッパノベルス … P235
 インディゴの藍が自分の惚れた男について、鮫島に語った台詞の一部。
 複雑な女心を端的に表していますね。
annie 36歳 女性 新潟県

コメント爺 爺のコメント まっこと女心っちゅーもんは! このトシになっても全然ワカラン! annieさんに教えてもらいたいもんじゃ。今さら遅いって? そのとおり! ワッハッハ。
 複雑な女心の「この瞬間」がわかる男だからこそ、藍も惚れたし他の女性たちにもモテたんじゃろうなあ…。(う、うらやましくなんかないわい!)

「そこは便秘のツボだぜ。あんまり押すとちびっちまう」
『悪人海岸探偵局』 大沢在昌
集英社文庫 … P44
 危機迫る場面で、こんな洒落たセリフが出てくるなんて!
 シローさんの大物ぶりにウケてしまいました。
 私もこの位の余裕でリスク回避をしてみたいと通勤電車の中で思いました。
KK 30歳 女性 東京都

コメント爺 爺のコメント 確かにウケるセリフじゃな。拳銃を突きつけられているというのに、シローもたいしたもんじゃわい。
 とっさのときに何が言えるか、これがなかなか難しいものでのう。爺は気が短くてイカンのかもしれん。リスク回避どころか、いつも火に油を注いでいるような気が…ゴホゴホ。KKさんのおっしゃる「余裕」が足りないんじゃろうな。
 しっかし、もし女性からこんなセリフを聞かされたら、格好良いぞ! 爺なら惚れる!

 玄関の方からやけに陽気な高笑いが徐徐に近づいて来て、我我のいる座敷の入口で止まった。
「僕だよ!」
「な、何者だ貴様ッ」
「探偵だ!」
『鉄鼠の檻』 京極夏彦
講談社文庫 … P315
 授業中、先生の目を盗みつつ読んでいたら撃沈しました。本気で笑いを堪えるのって辛いんだなぁ、としみじみ感じた金曜日の3限目(笑)
 榎さんが年に1、2度会うか会わないか、しかも大して交流のない親戚だったらいいなぁと思います(笑)
ひろい 17歳 女性 東京都

コメント爺 爺のコメント 爺の場合、3時限目はお腹がグーグー鳴っとったな。隣に座ってたお梅ちゃんに聞こえるんじゃないかとヒヤヒヤしとったわい。お弁当の時間に卵焼きを分けてくれたっけ…て、ことは聞こえてたんかの? ははは。
 ところで榎木津。なるべく遠縁がいいじゃろーな。敵には回したくないぞ。絶対。

「もう、あそこにいる榎木津探偵には手を出さない方が身のためです。あれと関わると—」
 猛烈な勢いで馬鹿になるんです、と古書肆は云った。
「礼二郎、いつか必ずブチ殺すからな」
『百器徒然袋—風』 京極夏彦
講談社ノベルス … P529-530
 上は京極堂、下は木場の台詞です。相手が榎木津とはいえ、あまりと言えばあまりにあんまりなこのお二方。 しかし笑えます。確かに この方達は仲間ではなく、一味なんだなぁ と納得させられる台詞だと思います。
 京極堂にとっては先輩で木場に至っては幼馴染なのにこんな事言っちゃうなんて(いつもの事だけど)。もし、冗談ですよね? って聞いたら「本気です」とこちらが叱られそうです。
おいわのわ 40歳 女性 三重県

コメント爺 爺のコメント 散々な言われかたじゃのぅ…。ただこんな事を言い合える仲間ってのはそうそういないもんじゃからなぁ。羨ましくもあるのー。
 猛烈な勢いで馬鹿になっていく様ってのを、わしも見てみたいのう(笑)

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