第5回 (2007/5/18)
まだいた爺!
「なんで、僕だって少しは楽をしたいと願わなくちゃならないんだろう。少しどころか山ほどの楽をしている若者が、この世の中には掃いて捨てるほどいるのに。何も願わなくても、すべてかなっている人たちが大勢いるのに」
『名もなき毒』 宮部みゆき
単行本/幻冬舎 … P419
 このセリフを読んで、私は自分がいかに幸せであるか気付きました。どんなに勉強が大変とか人間関係がうまくいかないと嘆いても、それは私の「幸せな悩み」なのだとわかりました。このセリフに代表されるように、この作品には、たくさんの名もなき毒と、悲しいことにそれらに侵されてしまった人々の必死の人生が描かれています。この時代にこそ人々に手にとってもらいたい一冊です。
ミシガニアン 23歳 女性 アメリカ

コメント爺 爺のコメント ミシガニアンさんの−それは私の「幸せな悩み」−そのとおりじゃ。幸せであることがあたりまえになるとそのことに気づけない。あなたはそれを自覚しておられるすばらしい事ですじゃ。

「あのな、善く考えてみろ! だって殺しちゃったら相手は死ぬんだぞ。死んだら楽だろうが。その人は生きているから辛いのだ。死ねば大抵は楽だぞ。悩むこともないし焼けちゃえば骨だからな。法を犯してまで楽にしてやる義理はないぞ」
『百器徒然袋—雨』 京極夏彦
講談社文庫 … P104
 子供の素直さと大人の勇気を持つ榎さんだからこその一言です。確かにこれは正しいですけど、子供ならともかく大人はフツー思ってても周囲の反応とかを気にして中々言えないことなんじゃないでしょうか。(私もたぶん無理です)
 それだけに私の中でこのシーンの榎さんはすごく凛としているイメージがあります。心のしがらみを持たずに大きな声ではっきりと言い切ってしまう榎さんはやっぱり自ら「神」を名乗るだけあって並みの人間ではないと思います。
Yui 16歳 女性 宮崎県

コメント爺 爺のコメント ほんと榎さんは人気者じゃのう。子供の素直さと大人の勇気の両方をもつなんて、普通じゃないわい。まあ、爺と榎さんぐらいじゃ。Yuiさんは物事が曖昧なのが嫌いなんじゃのう、きっと榎木津のようなはっきりした男性が好みと爺はみたぞ。

「本当の礼はカミさんにいえよ」
『風化水脈 新宿鮫VIII』 大沢在昌
光文社文庫 … P656
 雪絵の真壁への思い、それに真摯に応じようとする真壁。彼らから信頼を得て、救うこととなる鮫の男気。全てが詰まった文句なしのセリフです。
真壁 39歳 男性 東京都

コメント爺 爺のコメント ふむふむ、確かにこの鮫島セリフは短いのじゃが、この物語を読み進み、終盤になってしみてくるんじゃな、ほんと。そしてラストの真壁のセリフに結実していく。真壁さんはよう男女のことが判っておるふむ。

「碧が犯人でなかったら—」
「それはないよ」
「わあ!」
『絡新婦の理』 京極夏彦
講談社文庫 … P1001
 このセリフの前の辺り、美由紀が真剣に考えていたので私もシリアスな気分で読んでいたのですが、いきなり「わあ!」と来て一気にシリアス気分が吹き飛びました(笑)
 私も「きゃあ」というよりは「わあ」なので、ここはすごく共感しました。美由紀は年が近いからか共感する所が多いです。
アオイ 14歳 女性 富山県

コメント爺 爺のコメント 驚いたときのリアクションは人それぞれで、個性が色濃くでるそうな。「わあ!」派のアオイさんはどんな性格なのか? 爺の想像が膨らむぞ。年だけでなく性格も美由紀に近いとみた、ふむ確かに…。

「わかろうとせんから、わからんのだ。わかっておると知ろうとせぬからわからんままなのだ」
『孤宿の人』 宮部みゆき
単行本(下巻)/新人物往来社 … P105
 私は、今受験生なので、猛勉強中です。数学が苦手で、問題集をやってみても出来て一、二問…
 もしかして、「こんなの判らないに決まってる」と頭ごなしに決め付けているから解けないだけなのかも…と思った一言でした。
翻車魚 14歳 女性 神奈川県

コメント爺 爺のコメント 翻車魚が読めんかった。知りたくて辞書で調べたら、年のせいで忘れていたんじゃなくて、もともと知らん事じゃった。恥ずかしいかぎりですじゃ。人は探究心、好奇心をなくしたらダメなんだということ。翻車魚さんも解いてやろうという意思をもって臨めば意外と簡単かもしれん。がんばってくだされ。

「俺とあなたをつないでいたものが、今日、消えます」
『Kの日々』 大沢在昌
単行本/双葉社 … P479
 ストレートに解釈すれば、その通りなんだけど、この男が言うとそれ以上の嘆きというか、これで二度と表社会と関わりを持たないという決意を感じました。
「あなた」の中にあなたが代表する普通の人々という意味があるような気がするのです。
 短篇の主人公で一人称なんかで読んでみたいなあ。
鑑識課員 42歳 男性 東京都

コメント爺 爺のコメント 普通の人が裏社会で生きている人間と知り合うことなどほとんど無いわけで、裏で生きる者の嘆きを理解できるのは小説だからこそなんじゃ。鑑識課員さんも普通のお人なんじゃな。もちろんワシもじゃ〜。

「おまえは勝ったんだ。もっと喜べよ。なんで泣くんだよ。最後の、最後まで、おまえって・・・・・・ホントにお人好しだな」
「最後だ、なんて、い、言わないで」
『ブレイブ・スト−リ−』 宮部みゆき
角川文庫(下巻) … P400
 映画にも出ていて、ラストの方のシ−ンで出るセリフです。美鶴の幻界での最後の言葉で、このセリフを聞いたりすると、ちょっと悲しくなってしまいます・・・。
 美鶴は最後まで美鶴らしく振舞うんだなと思いました。
あ☆や★ 12歳 女性 山形県

コメント爺 爺のコメント このセリフの後、せつないシーンが続くんじゃよぉぉぉ…思い出すだけで胸がいっぱいになるわい。あ☆や★さんはつくづくミツルらしいセリフをお選びになったなぁ。 このセリフのせつなさがお分かりになるとは、あ☆や★さんはなかなか素晴らしい心の持ち主じゃよ。爺にまた心に残るセリフを教えておくれ。

「何を云うんですよ。失礼な。潔くなきゃタツさんのような人とは添えません」
 と云った。妻は私をタツさんと呼ぶのだ。
『鉄鼠の檻』 京極夏彦
講談社ノベルス … P94
「姑獲鳥の夏」以来、どうしても苦手だった関君を、一気に好きになった台詞です。
 もちろん悪人ではないけれど、あまりにも己の目を逸らしたい部分を突き付けられて、読んでいて辛いことが多かったので。
 それ以前に、欝気味で挙動不審で失語症で猫背で赤面症で人間不信気味な対人関係構築能力の極端に低いこの人が、何で結婚できたんだろう(失礼!)と思っていたものです。
 でも、この台詞を読んで、そんな気持ちは吹っ飛びました。なんだ、ちゃんと愛があるんじゃないか!と。
 雪絵さんの真っ直ぐな台詞も大好きですが、それ以上に「タツさん」という呼び方そのものに、雪絵さんの気持ちが込められているような気がします。そして、その想いを関君はちゃんと受け止めているんだなあと。
 ああ、私はこの夫婦に幸せになってもらいたいんだなあと、改めて気付かされた台詞です。京極先生、どうか関君と雪絵さんを幸せにしてあげてくださいね!
深山 30歳 女性 福岡県

コメント爺 爺のコメント ワシも最初は関口に嫁がいるのが不思議でならんかったよ。おっと、人のことは言えんが…。
 このひと言から"愛"を読み取るあたり、深山さんもなかなか深いねぇ。

「先輩、俺、いつか、先輩のために死ぬような気がしてました。何でもいって下さい」
『東京騎士団』 大沢在昌
徳間文庫 … P285
 この路のとぎれとぎれの台詞に、路の覚悟がヒシヒシと伝わってきた!
samasiyo 21歳 男性 東京都

コメント爺 爺のコメント samasiyoさん、渋いところから選ばれましたな!  この主人公たちは20代前半の若い男の子たちだから、お若い人は憧れるでしょうなぁ。
 わしも男に生まれたからには、一生に一度こんなセリフを言ってみたい(言われてみたい)もんじゃ。タカは幸せもんじゃよ。

いいか、美由紀。儂は爺だ。お前は娘だ。だから一緒にゃならんのだろがね、儂も恐ろしい目にゃ何度も遭うとる。しかしな、善く聞け。恐いのはお化けじゃねえ。悪漢でもねえ。人の心でもねえど。恐がンのはお前、自分だ。恐がってる者は、傍から見りゃ滑稽なだけだぞ」
『絡新婦の理』 京極夏彦
講談社ノベルス … P443
 いくつもの事象が何層にも重なり輻輳するなかで、真実の心が通い合うこの場面が大好きです。仁吉お祖父さんの言葉は、学院に充満する悪意に耐えかねて恐怖に震えることしかできなかった美由紀を立ち直らせました。可愛い孫への真っ直ぐな愛情は、狡猾な蜘蛛の罠より強いのです。
 外部でどんな事象が起きようと、恐いと思うのは、あくまで自分。
 慥かに。
 何かに恐怖を覚えたら、私もこのセリフを思い出して我に返ろう。
 いつも心に仁吉爺を。
  ああ、これでもう安心だ。
小波 42歳 女性 神奈川県

コメント爺 爺のコメント 同じ爺として、仁吉爺がうらやましい!!!  ワシも誰かの心に残るセリフを残したいもんじゃ。

「それよりも何よりも、逮捕されて、殺人やったってことがパアッと広まったとき、常盤先生が、ああやっぱり宝井綾子は俺がにらんだとおり、しょうもない人間になったと思うって、そのことが嫌で嫌で、悔しくてしょうがないの。常盤先生が、自分は間違ってなかったって満足する顔が、こう、頭に浮かんできちゃってさ」
『理由』 宮部みゆき
新潮文庫 … P574
 大きな失敗、挫折にぶつかった時、そのこと自体に対するショックを感じるのは勿論ですが、最近会ったこともないような昔の天敵をふと思い出し、あいつが聞いたらほくそ笑むだろうなと、何故かそのことが気になってしかたがない、私もそんな経験をしたことがあります。向こうは自分のことなんか忘れてしまっているかも知れないのに・・・。
 ストーリーと直結しない部分に、人間心理を描写し、多くの人の共感を呼ぶような挿話を、巧みに散りばめる、宮部みゆきさんの作品の魅力を如実に表しているセリフだと思います。
kensuke 27歳 男性 愛知県

コメント爺 爺のコメント kensukeさんのおっしゃる宮部作品の特徴を代表するようなセリフじゃな。物語の本筋とは関係なく見える会話や風景に、爺も共感しっぱなしじゃよ。
 しかし「天敵」とはすごい表現をしなさるのぉ!  ワシにも昔は"天敵"と呼べる相手がおったが、今じゃ"点滴"の方が身近になってしもうたわい。とほほ。

「いいですか? 目下の僕の一番の悩みは、三年間で高校を卒業できるかどうかなんです。お願いだから、スパイとか、復讐とか、そういう騒ぎに僕を巻きこまないで下さい。(中略)どうか、お願いだから、僕をほっておいて下さい!」
『不思議の国のアルバイト探偵』 大沢在昌
講談社文庫 … P330
 誰だって平和が一番好きですよね。その平和な生活の中で学校生活を送りたい。普通の高校生の、普通の考えです。だからこそ心に残ります。共感できます。リュウ君を一番近くに感じたシーンでした。
雷瀬 18歳 女性 奈良県

コメント爺 爺のコメント 土壇場で出るリュウの"クソ度胸"って言うんだろうか? 胸の中では思っても、この緊迫した場面で普通は口に出せない普通のセリフじゃのぉ。 だからこそ、雷瀬さんの心に響いたんじゃの〜。

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