編集部 |
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『新宿鮫』を読んだ時の正直な感想はいかがでしたか? |
K方 |
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俺は、「あ、褒められるかな」と思って嬉しくて、他に褒めるやつがいないだろうと思ったから一生懸命褒めたわけ。そうしたらみんな褒め始めてさ。やっぱりまずいなと思って、俺が火を付けたかなと思って後悔したな。 |
F戸 |
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うぬぼれが強いからな。 |
K方 |
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それ以後、おれ悪口言ったけどね、『新宿鮫』のね。 |
F戸 |
: |
このおとうちゃんが一番最初に裏側で書いたんじゃないか。 |
O坂 |
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あれも、もしかすると売れないんじゃないか、という心配があったから※29。何とか売りたいなと思ったわけです。べつに褒めすぎたということはないんだけどね。でも、あんなに売れるとは思わなかった。 |
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※29 このご恩は一生忘れません、だから早くサラリーマンやめて。 |
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K方 |
: |
あれは売れすぎだね。 |
O坂 |
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タイミングの問題で、あれが三年ぐらい前だったら別に話題にもならなかったと思うよ。
機がだんだん熟してるということがあるんだよね。 |
F戸 |
: |
それまでの大沢はガキだから、『くりくりクリス』とかね※30。 |
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K方 |
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大沢も努力はした。 |
F戸 |
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したね。内妻のよ、よくやったよ。 |
O坂 |
: |
努力がすべてだね。 |
K方 |
: |
大沢が昔言ってたのは、努力するのも才能だなって。
やっぱり自分の才能の質を認識してたね。 |
F戸 |
: |
わしらみたいに才能だけで生きてるのもつらいね※31。 |
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K方 |
: |
俺たち才能だけでさ。そこにもっと商才というのが入れば売れるのかもわからんな。 |
O坂 |
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才能と男っぷり。 |
K方 |
: |
S水さんは『新宿鮫』読んでないんだよね。 |
S水 |
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読んでるよ。俺も『新宿鮫』が出たときは嬉しかったけど、大沢の真骨頂というのは佐久間公シリーズだと思うんだ。
いま大沢は普通の作家になりつつあるから、このまま森繁久弥のようにはなってもらいたくないんだよ。いま「小説現代」に連載してるでしょう※32。あれ悟っちゃってるの。もう一回初心に戻らなければいかんと思う。 |
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※32 実はその点はいろいろある。待たれよ単行本の出版を。
(まるひ注:『雪蛍』のことです) |
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O坂 |
: |
そう言われると中年になったよね、大沢も※33。 |
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S水 |
: |
佐久間公シリーズみたいな小説を書くやついないんだよ、日本には。これからは売れると思うんだけど、あんな悟ったおっちゃんになってるのを見てると、淋しくなるね。 |
O坂 |
: |
『新宿鮫』読んだときは、『氷の森』で急に大人の作家になったなと感じたんだけど、そこからちょっと後戻りしたと思ったの。それが若書きと大人の小説の中間ぐらいで、二歩行って一歩下がったみたいな感じがしたのね。
それでちょうどいいバランスで受けたのかもしれない。 |
F戸 |
: |
大沢の鮫シリーズで最高は、俺は『毒猿』だと思ってんだよ。 |
O坂 |
: |
二作目ね。 |
F戸 |
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四作目の『無間人形』、あれは窮したときに使う手なんだよ。つまり一番最後に――。
これを使っちゃったというのは創造力に若干の問題性があるんじゃないかという気はしたな。 |
K方 |
: |
『無間人形』っていうのは、贈呈本が間に合わなくて六刷かなんか送ってきた。俺はだいたい初版を集めてるのに。
六刷の献本なんてあると思う※34。 |
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S水 |
: |
ないね。珍しい。 |
K方 |
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はっきり言って、嫌味だよ。 |
F戸 |
: |
しかしよかったよな、大沢もちゃんと出世できて。
昔はどうなるかと思ってたけど。 |
K方 |
: |
人間は死ぬ前にパッと光るときがあるんだよ。 |
O坂 |
: |
ろうそくみたいにな。 |
K方 |
: |
そうそう。まあ六月まではもたないだろうから。
「野性時代」のこの企画も幻の企画になるかもしれない。 |
S水 |
: |
追悼特集(笑)。 |
F戸 |
: |
タイトルそれにしよう。 |
編集部 |
: |
『新宿鮫』が爆発的に売れたあと、大沢さんになにか変化はありましたか。 |
O坂 |
: |
奥さんに聞いたほうがいいんじゃないの。 |
K方 |
: |
すごく傲慢になって、編集者をいじめてるらしい※35。 |
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※35 クルーザーを買ったものの燃料代がでず、各社編集者を集めてオールをもたせ、ガレイ船のドレイにしているあんたとはちがう。 |
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O坂 |
: |
人を人とも思わなくなった? |
F戸 |
: |
それはあるな。 |
K方 |
: |
俺たちにそれをやりゃ、悪口を書かれたりギャーギャー言われたりするから、俺たちには警戒してるよ。でも担当の編集者に聞くとわかるんだよね。 |
F戸 |
: |
俺も悪い噂聞いてんだよ。 |
O坂 |
: |
それをぜひ聞こうじゃないか。 |
F戸 |
: |
とにかく鼻高々になっちゃってよ。こういう会があったときには黒塗りの車を自宅の前に回してよこせとか※36、難しいことを言うようになったっていうんだよ。人間出世すると人格まで歪むね(笑)。 |
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S水 |
: |
俺は時々こうやって飯を食わしてくれてればいいよ。気が楽になる。 |
O坂 |
: |
将棋のときとは全然違うじゃない。いつもは手を出したくて出したくて、しょうがないくせにさ。 |
K方 |
: |
何かしらんけど、棋翁戦が始まってから、この三人には、俺と大沢の頭じゃ駒の動かし方も覚えられねえとか※37、とんでもないこと書かれてないか。 |
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※37 駒の動かし方は幼稚園のときから知っている。ただ仲間にされたくないだけだ。 |
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O坂 |
: |
いろんなこと書かれた。そう言えばね。 |