第23回 (2009/12/4)
ワシもハゲておるぞ
「あたしはマキ。ホテルでそういえばわかるわ」
 女は気取っていうと、ポルシェに再び乗り込んだ。僕はにこやかに叫んだ。
「ハゲのいない日に行きますから!」
 女が怒ったように叫び返した。
「ハゲなんかいないわよ。あたしは、そんな女じゃないわ!」
『アルバイト探偵 調毒師を探せ』 大沢在昌
講談社文庫 … P29
 隆くん最高。どうすればこんなにツボにはまる一言を言えるのだろうか。
 人を小馬鹿にした態度をとる嫌な奴っていますよね。なぜだか隆くんの一言に溜飲を下げられた人は多いのではないでしょうか。
 チャンスがあれば是非とも言ってみたいセリフですが、残念ながら最近は私自身がハゲてきました。
Yokohama_Middle 43歳 男性 神奈川県

コメント爺爺のコメント  ワシもハゲておるぞ(笑)。
 ハゲのかわりになる他のいい言葉が思いつくといいのじゃが。なかなかむずかしいのう。ははは。

「そうです。あんたのためだ。権吉さんがどうのこうのじゃない。あんたがしたいようにすればいいんです」
『ぼんくら』 宮部みゆき
講談社文庫(上巻) … P70
 この文を読んで、そうかすべては自分のしたいようにすることが大切なんだ。そうやって自分の人生、強いては自分のやりたいことは、人にお伺いをたてるものではないと痛感しました。
瀬野の千江子 47歳 女性 広島県

コメント爺 爺のコメント 結局はそういうことなんじゃろうねぇ。誰かのためにやっていると自分で自分に思い込ませているだけで、実は自分の気が済むようににしているだけ。それでいいのだ(バカボンパパ風に)。

「おお何ということだ。冬寺や馬鹿者どもの夢の跡とはこのことだ!」
『狂骨の夢』 京極夏彦
講談社ノベルス … P521
 替え歌ならぬ替え俳句でその場の雰囲気を一瞬にして壊す。
 これぞ榎木津礼次郎というセリフです。
雨月 18歳 女性 千葉県

コメント爺 爺のコメント しかも人まで助けて活躍しとるしな。いいなぁ榎木津は。その場の雰囲気お構いなしじゃもん。決して敵にはしたくない男じゃのう。

「普通に呼べないんですか。関口でいいですよ」
「それじゃあつまらないからタツミと呼ぼう。それが好い。タツミだ」
『陰摩羅鬼の瑕』 京極夏彦
分冊文庫版 講談社文庫(中巻) … P358
 いつもちゃんと名前呼ばないのにいきなりちゃんと下の名前呼んだ!
 という驚きもさることながら、関口さんが弱っているのを見抜いてそんな呼び方にしたのかな、と思うとほっこりします。
 榎さんの情の厚さが垣間見えちゃったなぁ、ぐふふ。と。
里 21歳 女性 埼玉県

コメント爺 爺のコメント ふだんは猿猿言っておるのにな。 なんだかんだいって榎木津は優しいんじゃよな。
 だからこそ、女性ファンがたくさんいるんじゃろか。うらやましいかぎりじゃ。

「私の碁敵の場合は、まさに勝負の黒白を争ったわけだけれど、おまえの場合は、そうだな、この世に起こる物事の白と黒とを並べて見るという意味合いになろうかね。必ずしも白が白、黒が黒ではなく、見方を変えれば色も変わり、間の色もあるという——うむ、そうだね」
『おそろし』 宮部みゆき
角川書店/単行本 … P86
 おんなじことについてなのに、世の中、人間の数だけ思いや考えがあって、それぞれ異なるんです。何が本当かなんて、きっと誰にもわからない。(「楽園」にも「真実にだって筋書きが必要なのよ」みたいな台詞があって胸を打ちましたが)
 自分が悲しかったり苦しかったりする時は自分の思いだけに圧倒されてしまいますが、 自分以外の見方に思いをはせることができれば、人の痛みを知ったり思いをわかちあえるんじゃないかなあと思います。(でも、私はまだまだそんな余裕もなく人を傷つけてしまうんですけど……)
ミシガニアン 24歳 女性 神奈川県

コメント爺 爺のコメント 見えているものだけが全てじゃないというのはそうじゃな。理解してはいても裏を見抜ける人間はそうそういないもんじゃ。ワシなんか、この年になっても見抜けず痛い目にあったりしている。いろんな角度からものを見るという心がけを忘れないことじゃの。

「どれほど祝福され成功した結婚でさえも、どこかに親不孝の要素を含んでいるものだ」
『誰か』 宮部みゆき
文春文庫 … P167
 40代独身両親と同居、それだけで親不幸している気分になりますが、ちょっと気が楽になります(苦笑)。
きーやん 45歳 男性 東京都

コメント爺 爺のコメント 気が楽になったのなら、おおいにけっこう。結婚するだけが親孝行じゃないと爺は思ったりするぞ。

「もし、時間を巻き戻すことができて、あの日あのときと、全く同じ状態に戻れたら、西野さんはちがう行動をとられますか」
『砂の狩人』 大沢在昌
幻冬舎文庫(上巻) … P40
 自分と同姓同名のキャラクターが登場する作品に興味をもち読み始めました。
 時岡警視正のこのセリフが無ければこのストーリーは展開しなかったような気がします。
 西野さんを愛してしまったことが伝わってくるセリフでした。
tokky 33歳 女性 香川県

コメント爺 爺のコメント  tokkyさん、この時岡のセリフ、この物語の重要な鍵じゃな。
 振り返ればやり直したいことばかりのワシじゃが、いまさら戻れんわい。ふん。

「取り縄はあんたの方が得意だった筈だがな」
「え?」
「悪党、御用じゃ」
 木場はそう云って、強面のまま笑った。
『魍魎の匣』 京極夏彦
講談社文庫 … P1033
 この木場のセリフを読んだ瞬間、涙がポロポロ落ちました。
 それまで悶々としながら読んでいたのですが、このセリフで心が晴れました。今回、私の「憑き物おとし」をしてくれたのは木場でした。
 中禅寺の言葉はグサリとくるし、榎木津の偶の(笑)真剣な言葉はハッとさせられますが、木場の言葉はホッとします。不器用で、一生懸命で、だからこそ温かいのだと思います。
 この後で、榎木津が木場のことを「頑強な豆腐みたいな男」と言っているのですが、なるほどなぁ、と思いました。見た目は煮ても焼いても不味そうだけども(笑)、中はすぐ別の味に染まってしまうぐらい繊細で優しい。これが木場を警官たらしめているのだろうな、と思います。
 最後に…『ヨッ、千両役者!!』
りぃ 19歳 女性 京都府

コメント爺 爺のコメント 物語の締めにふさわしい台詞じゃったな。 まさにこの瞬間、木場の憑き物も落ちたような瞬間じゃった。
 りぃさんは、木場が好きなんじゃな。ワシも木場が好きで読んでいる時は木場にシンクロしていることが多いぞ。

「偉い。偉いんだよその人は」
「偉くないよ。糸売って儲けただけだよ。別に空を飛べるわけでも、脱皮できるわけでもないぞ。」
『魍魎の匣』 京極夏彦
講談社文庫 … P457
 さすが、榎パパ。息子を上回る発言、しびれました。何もしなくても親子だとわかる所が最高です。
 でも、本当にこんな探偵がいたら世の中どうなるんでしょう……。
咲夜 32歳 女性 神奈川県

コメント爺 爺のコメント 糸を売って儲けるくらい、誰でもできるから偉くないという発想なんだな。それにしても空を飛んだり脱皮したりは普通できんぞ。できたら偉いというより、人じゃなかろうて。だからこその榎木津親子なんじゃろう。

「今はただ、歴史に相対したときの自分の無力さに、ただ呆然としているだけだよ」
『蒲生邸事件』 宮部みゆき
文春文庫 … P224
 はじめてこの部分を読んだとき、文字が浮かび上がって光って見えるという不思議な体験をしました。
 たった36文字のこのセリフのなかには宇宙よりも大きな広がりがあり、日常の不安や喜び、怒り、苦しみといった感情を全て包み込んでしまう力があります。
 無力な自分に絶望するのではなく"呆然と"する心がとても静かで、自分の周りが無音になったかのように体中に言葉が染みわたりました。
 私の一生の言葉になると思います。
おゆう 22歳 女性 神奈川県

コメント爺 爺のコメント つくづく思うのじゃが、おゆうさんも「蒲生邸事件」をどっぷりと読まれておられると爺は感心しておるのじゃ。
 作品の読み方、味わい方は人それぞれながら、心象風景から世界観いや宇宙観までひろげてしまった。んん〜ん爺は脱帽(脱毛)!?したぞ。

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